INO hidefumiとゴンドウトモヒコが繰り広げた“宇宙の井戸端会議”
猪野秀史が毎回ゲスト・プレイヤーを迎えてRittor Baseで行う生セッション配信〈INO hidefumi THE SESSION〉のVol.3。猪野の入院による延期を経ての第3回は、自身が参加するバンド、anonymous、METAFIVEや、数々のレコーディングやライヴに関わるマルチプレイヤー、ゴンドウトモヒコを迎えて行われた。
共通の知り合いは多いというふたりだが、こうしてセッションのホストとゲストとして顔を合わせて演奏するのは初めてだったという。セッションは、ゴンドウトモヒコがコロナ禍のなかで作った新曲〈Home Stay Home〉で始まった。猪野、伊賀航、北山ゆう子、そしてゴンドウが向かい合うように陣取ったスタジオの映像は、なんとなく広い宇宙空間のようで、孤独でストイックなムードにも思えるものだった。
猪野の「目からうろこ」「魔法」、ゴンドウの「Idylica」「Awkward Dance」と、お互いのレパートリーを2曲ずつ。目の病気で入院していた猪野が退院して最初に披露した自分の曲が「目からうろこ」というのは洒落てる。「Idylica」は、ゴンドウが“中学の時に書いた”曲で、「Awkward Dance」は五拍子の難曲。しかし、演奏自体には研ぎ澄まされた緊張感があるのだが、ゴンドウの吹くフリューゲルホルンが加わることで、独特のふくらみが生まれる。息を吹き込んで鳴らす楽器である管楽器の特質ではあるのだろうが、ゴンドウが好んで吹くフリューゲルホルンやユーフォニアムには、鋭く切り込んでくるというより、空間をふわっと広げてゆくような感触があった。
お互いに手の内を少しずつ見せ合ったあと、この日のハイライト的なシーンであった高橋幸宏楽曲のカヴァーへ。去年(20年)の8月に病気で入院し、現在は快方へと向かっている高橋の楽曲から一曲ずつが選ばれた。Yellow Magic Orchestra、METAFIVE、pupaで高橋とともに活動してきたゴンドウは、YMOの「CUE」を。イントロで自らディジュリドゥを吹き、自らヴォーカルをとった。初めて聴いたゴンドウの歌声はとてもまっすぐで不器用で、心なしか自然と震えているようなニュアンスが“幸宏声”の系譜だと思えた。
MCで先に紹介することもなく、「CUE」からそのまま猪野のチョイスへと演奏は進む。高速サンバ・アレンジのイントロにはひそかに「ライディーン」のコード進行が隠れているようにも感じたが、歌が始まると「Saravah!」だとわかった。性格や表現は違っても、ふたりからシンガーとしての高橋幸宏へのリスペクトが感じられた時間だった。ゴンドウは“配信アドレスは(幸宏さんに)伝えてある”と言っていたので、もしかしたら本人も見ていたかもしれない。見たらきっと喜ぶんじゃないか。
そこからライヴも終盤へ。やはりコロナ禍に生まれた曲だというゴンドウの「Tuning Pressure」。“同調圧力”という意味だが、猪野が指摘したようにYMOのライヴ盤『Public Plessure』も彷彿とさせるタイトルにも受け取れた。続く猪野の「犬の散歩」には、普段通りの生活をしようとしても不安がつきまとうこの時代と接している部分がアルバムで聴いたときより増したような印象を受けた。歌声の力強さも含め胸に届いた言葉に、ハッと我に返ったのはぼくだけではないだろう。
そしてラストはナット・キング・コールやファッツ・ドミノ、高田渡らの名演名唱でおなじみ「私の青空」。グッとニューオリンズの街場に寄せたアレンジでエンディング。孤独な宇宙空間だと思っていたスタジオは、いつの間にかにぎわう南部の街になっていた。
そういえば、MCタイムで猪野が中心となって続くやりとりを、ゴンドウはいつもこんなに長いのかと苦笑していたが、あの井戸端会議みたいな時間は絶妙にクセになる。いつしかそのペースに誰もが巻き込まれていた。演奏の緊張感とトークの弛緩は、猪野にとってON/OFFで分け隔てるものではなく地続きにあるものらしい。緻密に計算されたカメラワークと編集を経て完成された配信ライヴ映像をいくつも見慣れた目と耳には、この普段通りの感覚が新鮮だ。音楽は稀有なのに、そこで息を吸って吐くように生まれる音楽が“普段”とつながっている。それはきっと、この日のライヴだけじゃなく、これからずっと必要なものだ。
まるで“宇宙の井戸端会議”に立ち合ってるみたいなあの感じ。次もまた味わいたい。
フェンダーローズの名手として知られるキーボーディスト、INO hidefumi(猪野秀史)。自身のリーダーアルバムを数多くリリースしているほか、プレイヤーとしてもさまざまなミュージシャンのライブに参加するなど多方面で活躍しています。そんな彼をホストに据え、リットーミュージックが運営する「御茶ノ水 RITTOR BASE」から行う配信ライブシリーズが“INO hidefumi THE SESSION”。8月のハマ・オカモト(OKAMOTO’S)、そして10月の鈴木茂に続き、3回目となる今回はゲストにゴンドウトモヒコを招き1月21日に開催します! 管楽器とコンピューターに精通したユニークなスタイルのミュージシャンとして、META FIVEや蓮沼執太フィルのメンバーとして活躍するだけでなく、YMOやThe Beatniks、くるりなど多くのバンドのレコーディングやライブに参加。それらすべての現場で絶妙のサポートを行っているゴンドウは、日本の音楽界にとってもはや欠かせぬ存在であると言っても過言では無いでしょう。そんなゴンドウとINOが、それぞれの持ち曲をはじめ、カバーやフリーのセッションまで幅広い音楽を演奏します。サポートには細野晴臣バンドでベース(!)を担当している伊賀航、そしてキセルでのシュアーなドラムで知られる北山ゆう子を加えた万全の布陣。定評あるRITTOR BASEの映像・音響システムを生かした極上のストリーミング配信で、ミュージシャンそれぞれの息遣いまでが存分に感じられる内容となるでしょう。また、INOとゴンドウによるコラボTシャツ付視聴券も販売します。お得な価格設定となっていますので、ぜひご購入ください!
<INO hidefumi THE SESSION vol.3 featuring ゴンドウトモヒコ>
開催日時:2021年1月21日 (木) 20:00- (演奏は1時間強を予定。アーカイブは2021年1月28日23時まで視聴可能)
ストリーミング視聴券:2,300円
Tシャツ付ストリーミング視聴券:5,300円
*Tシャツの発送は11月末を予定しています。あらかじめご了承ください。
<視聴の際の注意事項>
・本公演はインターネットでの公演となります。閲覧に関わる通信費用はお客様のご負担となります。
・データ量が多くなるため、安定したインターネット環境の利用を推奨します。
・配信ページへのリンクボタンは、開演の約20分前に「イベント視聴ページ」に掲載します。
オンラインイベントの参加方法
・ライブストリーミング中、途中から視聴した場合はその時点からの映像となり、巻き戻しての再生はできません。
・アーカイブは2021年1月28日23時まで視聴可能です。
・ライブストリーミング後にファイル変換を行うため、1時間ほど視聴できない時間があります。あらかじめご了承ください。