Ableton and Max Community Japan #049「Simulation of Nature」

INO hidefumi THE SESSION vol.4 featuring 高野寛

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INO hidefumi THE SESSION vol.4 featuring 高野寛 "ねむれない"

レポート

ビートルズ〈ゲット・バック・セッション〉の、いいムードの日の演奏を聴いているような錯覚

  • 松永良平(リズム&ペンシル)

1曲目は、細野晴臣の名曲「終りの季節」だった。ホストの猪野秀史もゲストの高野寛も、特に何かをMCで説明するでもない。この曲を高野は2013年10月リリースのカヴァー・アルバム『TOKIO COVERS』でとりあげているし、もちろん猪野も大好きな曲だからこその1曲目なのだろうけど、二人が感じている共通言語のような感覚はなんとなくわかる。それは、“シティ・ポップ”という言葉が生まれる以前、まず1970年代の半ばに“シティ・ミュージック”という呼称があった頃、海外からの影響をめいっぱい受けながらも、好きな音楽を自分たちの肌感覚へフィットさせる方法を若者たちが真剣に探っていた時代の手触り。この夜の隠しテーマはそれかもしれないと予感させる最高の幕開けだった。

そもそも、セッションというかたちでお互いの引き出しを開け合うことはプロフェッショナリズムのなかにアマチュアリズム的な楽しみを見出す方法でもある。2曲目に演奏された「(それは)Music」(高野寛『TRIO』/2014年8月)で、高野は終盤の歌詞を「これが新しいセッションのミュージック」と変えて歌った。即興で出た言葉だとしても、それが正直な手応えであり喜びの表現だったのだろう。「each other」(高野寛『Rainbow Magic』/2009年10月)を歌い終えて、リズム・セクション(伊賀航+北山ゆう子)を「リンゴとポールが憑依したようなプレイ」と称賛したのも印象深い。実際、「each other」の曲調のせいもあって、ビートルズが1969年に行っていた〈ゲット・バック・セッション〉の、いいムードの日の演奏を聴いているような錯覚をぼくも覚えていたから。

いっぽう、猪野は、ポップさに隠された高野の“はみ出していく力”を引き出そうとする。「ねむれない」(INO hidefumi『SONG ALBUM』/2018年10月)で高野が弾いたフリーキーさのあるギターソロを「アンヴィシャス・ラヴァーズの頃のアート・リンゼイのよう」とたとえたのも、その一端だろう。そうした言葉のやりとりや演奏のミステイクも、セッションに有機的に作用していく。それを無修正で受け取ることができるのも生配信ならではのおもしろさだ。

そんなおもしろさが最初の頂点に達したのが、この日のために用意されたカヴァー「レディス&ヂェントルマン&おとっさん・おっかさん(ユー・ビロング・トゥ・ミー)」だ。昭和30年代に一世を風靡したコメディアン、トニー谷が、アメリカのスタンダード曲として知られる「You Belong To Me」を大胆な日本語歌詞を交えてカヴァーした1曲。破天荒な歌詞で生まれ変わったこの曲を、猪野はさらにファンキーにリメイク。最新シングル「IN DREAMS」のカップリング曲「MAGNETIC DANCE」にも通じる、笑えてもなおかっこいい今のINO hidefumiのモードが伝わってきた。

また、猪野はMCでは言及はしなかったが、おそらくこの曲を知ったきっかけは世代的に見て大滝詠一が監修したトニー谷のベスト盤『THIS IS MR.TONY TANI』(1987年)を通じてだろう。いっぽう、高野は原曲の「You Belong To Me」を山下達郎のア・カペラ・アルバム『ON THE STREET CORNER』(1980年12月)でのカヴァーを通じて知ったという。同じ曲をカヴァーしている二人の背後で大滝詠一と山下達郎が交錯していたと妄想してしまった。

セッションは後半に入り、この日の“第一のヤマ”と評されていたテクニカルなインスト曲「Salsa de Surf」(高野寛『A-UN(あ・うん)』/2018年2月)。もともとアコーディオン奏者cobaから「サーフミュージックをサルサでやってほし
い」とのリクエストで高野が書いた楽曲のセルフカヴァー版。この日の演奏はギタリスト高野寛のえぐみが存分に出た凄まじいもの。ため息が出るほどかっこよかった。

そして“第ニのヤマ”は、伊藤銀次「こぬか雨」のカヴァー。それをこの日は、シュガー・ベイブによる未発表ライブ・バージョンを元にして演奏するのだという。若い頃に組んでいたバンドですでにそのカヴァーを猪野はやっていたという。過去の自分も一緒に連れてこの場にいることは決してうしろ向きなことじゃない。見ているのは、そのときも今も好きな音楽を好きだと言い続けているからこそ出会える未来だ。演奏を終えて「100点!」(猪野)、「楽しいね!」(高野)とふたりから声が出たのが、その自然な証明だ。

ラスト2曲で、当日の朝にSNSでの書き込みがきっかけで急遽飛び入りが決まったゴンドウトモヒコがフリューゲルホルンで参加。ふくよかな厚みを増したアンサンブルで、小坂忠「ほうろう」のカヴァー、そして最後に高野の「夢の中で会えるでしょう」(1994年10月)へ。

この先もぼくらが音楽を好きで居続けられるなら、また夢の中で、そしてやがてはきっと現実でも会えるでしょう。

たぶん、その悦楽とスリルは50年前の1970年代も、コロナ禍の今現在も、もしかしたら50年後もそんなに変わらないのかも。自分たちらしく、憧れのありかを見つけ出すことが楽しい。その快感原則は変わらないんだから。つくづくそう思えた特別な一夜だった。

*初出時「Salsa de Surf」の作曲者表示に誤りがありました。お詫びして訂正いたします。

イベント情報

出演者
  • INO hidefumi (猪野秀史:いの ひでふみ)
  • 高野寛
開催概要

フェンダーローズの名手として知られるキーボーディストINO hidefumi(猪野秀史)がホストとなり、御茶ノ水 RITTOR BASEから行う配信ライブシリーズ=“INO hidefumi THE SESSION”。ハマ・オカモト(OKAMOTO’S)、鈴木茂、そしてゴンドウトモヒコに続き、今回はゲストに高野寛を招き3月25日に開催します!
シンガー・ソングライターとしてソロ活動をしているだけでなく、ギタリストとしてもYMOやTEI TOWA、宮沢和史、星野源をはじめとした多くのアーティストのライブや録音に参加するなど、日本の音楽シーンで確固たる地位を築いてきた高野。そんな彼が初顔合わせとなるINOと一緒に、それぞれの持ち曲や意外なカバー曲を、ここでしか聴けないアレンジで披露します。
サポートは細野晴臣バンドでベース(!)を担当している伊賀航、そしてキセルでのシュアーなドラムで知られる北山ゆう子を加えた万全の布陣。定評あるRITTOR BASEの映像・音響システムを生かした極上のストリーミング配信で、ミュージシャンそれぞれの息遣いまで存分に感じられる内容となるでしょう。
また、高野が撮影した写真をもとにINOがデザインしたコラボTシャツ付視聴券も販売します。お得な価格設定となっていますので、ぜひお求めください!

<INO hidefumi THE SESSION vol.4 featuring 高野寛>
開催日時:2021年3月25日 (木) 20:00- (演奏は1時間強を予定。アーカイブは2021年3月31日23時まで視聴可能)
ストリーミング視聴券:2,200円
Tシャツ付ストリーミング視聴券:5,500円

*Tシャツの発送は4月上旬を予定しています。あらかじめご了承ください。

<視聴の際の注意事項>
・本公演はインターネットでの公演となります。閲覧に関わる通信費用はお客様のご負担となります。
・データ量が多くなるため、安定したインターネット環境の利用を推奨します。
・配信ページへのリンクボタンは、開演の約20分前に「イベント視聴ページ」に掲載します。
オンラインイベントの参加方法
・ライブストリーミング中、途中から視聴した場合はその時点からの映像となり、巻き戻しての再生はできません。
・ライブストリーミング後にファイル変換を行うため、1時間ほど視聴できない時間があります。あらかじめご了承ください。

出演者プロフィール
  • INO hidefumi (猪野秀史:いの ひでふみ)
    1970年7月26日宮崎県延岡市生まれ。5歳からピアノを習い始めクラシックの教育を受ける。鍵盤奏者、シンガーソングライター、アレンジャーとして主にフェンダーローズエレクトリックピアノをメインに据え活動。1レーベル1アーティストをコンセプトに2002年に設立した自身のイノセントレコードから11枚の7インチシリーズはじめ様々な楽曲を発表。作品の全アートワークも手掛け、楽曲提供他、作品は多岐に渡る。自身のプロデュースするINO BANDではワンマンツアーをはじめ音楽フェスやイベント等に出演。最新作『SONG ALBUM』には細野晴臣、小西康陽、鈴木茂、林立夫、常磐響、沖祐市、ハマ・オカモト(OKAMOTO’S)、馬場正道らがコメントを寄稿。ミニマルに削ぎ落とされたシュールな音とことばの世界、まっすぐに乾いた声で歌い上げる独自のグルーヴと浮遊感で幅広い層の心を揺らしながら浸透中。
  • 高野寛
    1964年生まれ。1988年ソロデビュー、2019年までにベスト盤を含む22枚のソロアルバムをCDで発表。ソロ作品の他、世代やジャンルを超えたアーティストとのコラボレーションも多数制作。ギタリストとしてもYMO、TEI TOWA、宮沢和史、星野源など数多くのアーティストのライブや録音に参加。サウンドプロデューサーとしては小泉今日子、THE BOOM、森山直太朗、GRAPEVINE、のん などの作品を手がける。2018年10月10日にデビュー30周年を迎え3枚組ベスト『Spectra』とオリジナルアルバム『City Folklore』をリリース。noteで30年を振り返る自伝的エッセイ『ずっと、音だけを追いかけてきた』を執筆。2020年春以降ライブ自粛が続く中、未発表作品をほぼ毎月のペースでbandcampより配信リリース。その他にも動画配信プログラム「新生音楽(シンライブ)」など、現状打破の試みに意欲的に取り組んでいる。『Spectra』(2018)、『Everything is Good』(2017)、『TRIO』(2014) などのアルバムジャケット写真は自身の撮影による作品で、2014年のブラジル滞在中に撮影した写真と滞在記によるフォト・エッセイ集『RIO』も刊行。2013年4月から京都精華大学ポピュラーカルチャー学部・音楽コース特任教授に就任、2018年4月からは同学部客員教授に就任。

これから開催するイベント

このウェブサイトについて
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