Ableton and Max Community Japan #055「JitterによるオーディオリアクティブVJ & GPUポストエフェクト 〜 聖地巡礼VJ & マシンライブ feat. Mitaka Sound 〜」

Special Live 大友良英+小山田圭吾 1st set

終了レポート
20230408(土)
0415(土)
end

レポート

亡き坂本龍一が提供した音源を交えた幽玄かつスペイシーな即興演奏

  • 音楽評論家
    小野島大

2023年4月8日、東京・御茶ノ水RITTOR BASEで行われた大友良英+小山田圭吾公演、2セット行われたセッションを幸運にも2回とも見ることができた。本当に素晴らしい音楽体験だった。ライヴが終わって数時間たった今もまだ余韻が残っているようだ。

既に報じられているように、今年の元日に放送された坂本龍一のラジオ番組『RADIO SAKAMOTO』で病気療養中だった坂本の代役として小山田がホストをつとめた際にゲストとして出演したのが大友で、その席上で大友から即興ライヴをやらないかと誘いを受けた小山田が快諾、たまたまその放送を聞いていたRITTOR BASEのディレクター國崎晋がその場でふたりに出演をオファー、この日のライヴが実現した。大友がゲストに呼ばれたのは、坂本のトリビュート・アルバム『A Tribute to Ryuichi Sakamoto -To the Moon and Back』に参加したただ二組の日本人アーティストが小山田(コーネリアス)と大友だったからだろう。それまで面識程度はあったものの、音楽上の接点はほとんどなかったふたりの共演が、坂本龍一という媒介者を通じて実現したのだ。

大友は、東日本大震災以降坂本と共演する機会が増え、音楽家としてのあり方や考え方も含め多大な影響を受けたという。小山田も初めての即興演奏の相手が坂本で、その後もYMOや坂本龍一バンドのサポートとして何度も共演して、やはり大きな影響を受けていた。つまりこの日はデュオでの共演ではあるものの、両者の間には坂本という大きな存在があった。

ライヴ冒頭でふたりから、この日のライヴのために坂本から音源素材の提供を受けたことが明かされる。ふたりの共演のきっかけを作ったのが坂本なんだから3人でセッションしたい、実際に顔を合わせてのライヴが無理ならリモート参加で、それも無理なら素材となる音源を提供してくれないか、というふたりの願いに応え、坂本は恐らくはアルバム『12』用に録りだめていた音源のひとつをこの日のライヴのために手直しした。そのタイムスタンプが2023年3月16日だったというから、まさに最後の入院の直前のこと。そんな中で信頼する2人の後輩のために音源を仕上げたのだ。少なくとも他者に提供した音源としては、これが生前最後の録音だという。もちろんふたりはライヴ前に坂本が亡くなってしまうなど考えてもいなかったはずだ。だからこの日のライヴは、結果的に坂本の追悼ライヴのニュアンスが強くなった。

坂本から提供されたのは、ドローン的なシンセの持続音が収録された20分ほどの音源。それを小山田持参のiPhoneから流し、それに合わせたふたりの即興演奏が始まった。ふたりはエレキギターを抱えながら、ターンテーブル、CDJ、DJミキサー、サンプラー、カオスパッドなどを駆使していろいろな音を文字通り即興的に繰り出し、変化をつけていく。坂本の音源のキーがしっかり定まっているので、それをベースにしてふたりのインスピレーションとイマジネーションが飛躍し絡み合い融合する。会場の最後列で見ていた私にはふたりが何をやってるのか細かいことはほとんどわからなかったが、たったふたり(プラス1人)でやっているとは思えないほどカラフルで変化に富んだ音像は、RITTOR BASEの小さな空間を、映像も凝った照明もないのに完全な別世界に変えるほどの豊かな浸透力をもっていた。ロバート・フリップの「フリッパートロニクス」を思わせるような幽玄かつスペイシーな両者のギター・プレイの絡みが素晴らしく、しばし陶然とする。

言うまでもなく大友は日本を代表するインプロヴァイザーであり、内外の数えきれないほどの切れ者ミュージシャンたちと共演してきたフリー・ミュージック/即興音楽の第一人者。それに対して小山田はコーネリアスという緻密に構成された高度かつハイセンスなポップ・ミュージックを身上とする「構築型」の音楽家だ。対照的な両者の共演の真髄は、坂本の音源なしのふたりの演奏だけで構成された2曲目で遺憾なく発揮された。

幽玄でスペイシーな1曲目とは対照的に、2曲目はいきなりつんざくような耳障りなノイズで始まった。あとで配信映像を確認すると大友がクレジットカードのようなプラスチックのカードを回るターンテーブルにこすりつける音とわかったが、現場での私にはそのノイズが、人間に痛めつけられボロボロになった地球の切羽詰まった悲鳴のように聞こえてならなかった。もちろんそれはこの日の影の主役・坂本龍一が環境問題のアクティヴィストでもあったという私の先入観が手伝っての「妄想」に過ぎないわけで、演奏していた2人がそんなことを考えていたとは思えない。だがそんな妄想もしくはイマジネーションを許してくれる空白のある、豊かで広がりのある美しい演奏が目の前で繰り広げられていたこともまた確かだった。

エレキギターの音をさまざまなエフェクターで加工し、CDJやiPhoneの音源をカオスパッド4台でリアルタイムエフェクト処理していく小山田に対して、大友はギターと共にプラスチックカードやターンテーブルなどの非楽器を含む種々の「音の出る小道具」を駆使して、時に心地よい、時にトリッキーでエキセントリックなノイズを出す。さすがに場慣れしているというか、即興の経験豊富な大友は、楽曲の展開やカウンター的なネタ提供が巧みで、小山田はデリケートで美しい音色の選択で酔わせる。共通しているのは相手の出す音に即座に反応して的確に返す耳の良さと反射神経の良さ、そしてセンスの良さだ。即興演奏家としてのふたりの相性は極めて良いように思われた。

そして気がつけば演奏はいつのまにか終わりを迎えていた。1時間やったらしいが、体感時間はその半分ほどだったと思う。終わったあとは本当に夢から覚めたような感覚。歌も、歌詞も、一切の言語表現もない、特別なヴィジュアルもない、音だけのパフォーマンスであっても、いやだからこそ、ここまで豊かで美しい表現となる。それを実感させられた。

また会場音響の素晴らしさも特筆ものだった。PAエンジニアは昨年末、大阪味園ユニバースで見た長谷川白紙公演での驚愕の音像の立役者・ナンシーこと溝口紘美である。1回目のセットの冒頭にわずかに聞こえたノイズ(音のびりつき)に素早く対処し、ふたりのプレイヤーの出すデリケートな音を丁寧にすくいあげてバランスよく聞かせた繊細なエンジニアリングは見事だった。

休憩のあとのセカンド・セットは、一回目とは全く違っていた。即興だから当然なのだが、音楽が生き物であり、その場限りのものであり、一期一会であることを痛感した。どちらが良かったかは、アーカイヴ配信の映像でぜひご確認いただきたい。特に世界初だという一般家庭へのDSD生配信のサウンドの生々しさと滑らかさは特筆もので、オーディオマニアも必見・必聴である。配信音源のエンジニアはHYDE、やくしまるえつこ、米津玄師などを手がけた米津裕二郎である。

終演後の2人の満足気な表情が、この日の演奏の出来の良さを物語っていた。特に小山田にとっては、今後の音楽活動の転機となりうるような新たな経験だったのではないかと思う。再度の共演も含め、今後の両者の活動に期待したい。

イベント情報

出演者
  • 大友良英
  • 小山田圭吾
開催概要

大友良英と小山田圭吾……ともにポップからエクスペリメンタル、メジャーからマイナーまで、幅広い音楽シーンにかかわるギタリスト/サウンドクリエイターとして活躍している2人だが、意外なことにこれまでほとんど接点が無かった。それが今年の元日に放送されたJ-WAVEの人気番組「レディオ・サカモト」で、病気療養中の坂本の代演として小山田圭吾がホストを務めた際、ゲストとして大友良英が招かれ、ほぼ初対面的なトークの中で意気投合。“そのうち即興で何かやりませんか”との大友の申し出に、小山田も「それはすごく嬉しいです」と即答。ここにデュオによる即興演奏ライブが実現することとなった。

2人は昨年11月にリリースされた世界中のミュージシャンによる坂本龍一へのトリビュートアルバム『A Tribute to Ryuichi Sakamoto – To the Moon and Back』に参加し、大友は「WITH SNOW AND MOONLIGHT – SNOW, SILENCE, PARTIALLY SUNNY」を、小山田は「THATNESS AND THERENESS」をそれぞれ斬新な解釈で再構築していた。そんな2人が坂本龍一のラジオ番組をきっかけとして実現するこの即興演奏、きっと“坂本龍一の音楽”が重要なキーワードとなることだろう。

ライブは1st(16時開演)と2nd(19時開演)の2セットを開催。即興演奏という性格上、まったく違った内容となることは間違い無く、どちらも見逃せないものとなること請け合いだ。

<Special Live 大友良英+小山田圭吾 1st set>
開催日時:2023年4月8日 (土) 開場 15:45- / 開演 16:00-
会場参加券:5,500円(限定30席)
オンライン視聴券:3,300円
チケットの申込みはこちら
*チケット販売は3月25日12時開始となります。
*会場参加券、オンライン視聴券ともに4/15 23時まで1stセットのアーカイブ視聴が可能です。
会場:御茶ノ水 RITTOR BASE (JR御茶ノ水駅 徒歩2分)
〒101-0062 東京都千代田区神田駿河台2-1 お茶の水クリスチャン・センターB1
会場地図

2ndセットのチケット(会場参加券、オンライン視聴券)の申込みはこちらから

出演者プロフィール
  • 大友良英
    1959生まれ。映画やテレビの音楽を数多く作りつつ世界各地のノイズや即興の現場がホームの音楽家。ギタリスト、ターンテーブル奏者。美術と音楽の間のような作品から、一般参加のプロジェクトも多数。長年にわたりアジア各地の音楽によるネットワークづくりにも奔走。震災後は故郷の福島でも活動。2013年「あまちゃん」の音楽を担当。2017年札幌国際芸術祭の芸術監督。2019年福島市を代表する夏祭り「わらじまつり」の改革も手がける。2022年は映画「犬王」ドラマ「エルピス」などの音楽を担当、また大友良英スペシャル・ビッグバンド6年ぶりのアルバム「Stone Stone Stone」をリリースしている。
  • 小山田圭吾
    1969年、東京生まれ。1989年にフリッパーズギターのメンバーとしてデビュー。バンド解散後、1993年、Corneliusとして活動をスタート。現在まで6枚のオリジナルアルバムをリリース。自身の活動以外にも、国内外多数のアーティストとのコラボレーションやREMIX、
    インスタレーションやプロデュースなど幅広く活動中。

これから開催するイベント

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